チョンマゲ

3/3
前へ
/3ページ
次へ
副支店長からマイクを預かった課長が、 「かくし芸大会のオーラスは、支店長と副支店長です!」と言うと、2人は舞台に上がっていった。 支店長はこちら側を向き、舞台の上で胡坐をかいて座り、その横で副支店長は、こちら側を向き立っている。 「ではお願いします!」と課長の声が響くと、 「はい!」と大きな声で返事をした副支店長は、 浴衣の前を広げ、履いているパンツに手を掛けた。 すると勢いよくそれを下までおろし、下半身を丸出しにした。 もうそれだけで宴会場は職員達の笑い声に包まれたが、(かくし芸大会なのに、かくしてないじゃないか!むしろ晒しているじゃないか!) と、僕は突っ込みそうになった。 副支店長はおもむろにその姿のまま、支店長の背後に立った。 (何が始まるのか?)僕はドキドキしながら見ていると、 少し背伸びをした副支店長は、自身の晒した下半身から一物を握ると、あろうことか、支店長の禿げた頭頂部にそれを乗せた。 そして、2人は声を合わせて「チョンマゲ!!」と叫んだ。 その瞬間宴会場は今までにないくらいの爆笑に包まれた。 確かに、禿げた支店長の頭に乗っている副支店長のソレは、チョンマゲに見えなくもない。 笑っていないのは、この出来事に驚いている僕と、冷ややかな目で見ていた❝お華❞さんたちだけ。 笑いながら舞台から降りてくる支店長と副支店長の姿に、僕は不思議な感動を覚えていた。支店長の口癖が頭の中にこだまする。 「何事も一生懸命やれ!」 (そうなんだ!仕事だとか遊びだとか関係ないんだ!一生懸命やるからこそ、こんなにも人を笑わせることができ、感動もさせるんだ!一生懸命やれば、きっとお客様の気持ちだって動かすことができる!) 僕は、(適当にやればいいや)と思っていた自分をひどく恥じた。 あの後、僕は疲れ果てて部屋で寝てしまったが、先輩の話を聞くと、3人の❝お華❞さんを連れて、2次会のカラオケに行ったが、支店長が❝華❞が足りないと言い出し、追加で❝お華❞さんを呼んだところ、枯れかけた❝お華❞が来たものだから、「誰だ!?食虫植物を呼んだのは!」と怒りだし、大騒ぎだったらしい・・・ 今は帰りの電車で揺られている。 この厚生旅行は僕にとっていいきっかけになった。 まだまだ学生気分が抜け切らない自分にとって、社会人としての心構えを教えて貰ったような旅行だった。 僕は心に誓った。これからは何事も一生懸命取り組もう。 そして、厚生旅行での汚名は、厚生旅行でしか晴らせない。 僕はリベンジのために、手品の勉強をはじめた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加