04 ○ ボタン

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   床が急につめたく感じられた。裸足だった。そういえば靴下をはいていない。どこにいったのだろう自分の靴下は。床にはどこにも落ちていない。とするとベッドの中だろうか。シーツにでもくるまっているのだろうか。 「佐々木さん、酔っ払ってたみたいだし、その」  新井はせわしなく頭に手をやっている。さらさらした髪の毛を指の間にはさんで何度も揉みこんでいる。髪の毛に手をやるのは彼のくせだ。仕事中も、よくこれをやっているのを見る。  トイレの水の音がまだ聞こえてくる。いそがしいトイレだ。 「……なに言ってるの?」 「は?」 「どうしてそんなこと聞くの? きのうのこと覚えてます? だなんて、どうしてそういう無神経なことを聞くの新井くんは」 「無神経――」 「そうだよ、無神経だよ。起きたら裸だったよ。それでわかった。ゆうべ、新井くんとそういうことがあったんだって。それくらいわたしでもわかるよ。いくら酔っぱらって記憶がなかったとしてもね。だからそういうのを女のひとに聞くのは無神経だっていうの」  口から次々と飛びでてきてしまう。とげとげしいのが。 「なんだ、それ」  新井が顔をしかめた。  たしか21歳。年下の男。けれど幼い雰囲気はない。  髪の毛を手でにぎったまま新井がつぶやいた。 「なんか、わけ、わかんねえ。なに急に怒りだしてんですか……わけわかんねえ。言ってることも」  言葉につまった。  怒っているのは新井のほうだ。ふだんは温厚そうな、ひとのよさそうな顔をしているくせに。いま怒っているのはそっちのほう。  新井が足を組みかえていた。頬杖もやめていた。 「だいだい、佐々木さんもあれじゃないですか」 「……なによ」 「酒にだらしねぇ。女のくせに」  女のくせにって。  女が酒飲んで悪いか。 「昨日俺、居酒屋で見てたんですけど。佐々木さんがひとりで、カウンターでガーガー何杯も酒飲んでるの。で、飲んで飲んで酔っ払って気持ち悪くなったあげく、トイレでゲーゲー吐いて。佐々木さんは覚えてないかもしれないけど、トイレのきったねぇ床で寝そべってたんですよ? 髪とか振り乱してうーうー唸って。俺がその場にいって介抱してなかったら、いまごろどうなってたと思うんですか? 佐々木さん、きっと、そこらへんのオッサンか誰かに食われてましたよっ」  言ってしまって、新井が口を押さえた。ひどく大げさに。  きっと誰かに食われてた。  でも結局は新井が抱いた。  女性を部屋につれこんで、そんなことをするタイプのひとには見えない。  けど新井が抱いた。  
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