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02 ● デジタル文字は9:06
こそこそと女のように寝返りをうち、路子に背中を向けた。
カーテンを閉めきっていても、視界は明るかった。
九畳のワンルームの、フローリングの部屋の様子が見えた。ご飯を食べたり、レポートを書くテーブルがぼんやりと見えた。テーブルには少し埃が積もっている。テーブルの向こうに冷蔵庫と小さなキッチンが見えた。キッチンは綺麗だ。ろくに料理なんてしないからだ。ガステーブルにはケトルのやかんがひとつ、置いてある。あれでいつもカップラーメンやインスタントコーヒーの湯を沸かす。
なにもかもぼんやりと見えた。昨夜の事を思い出していたせいだ。
そうしているうちに下半身が反応してしまった。これは違う。朝で、トイレに行きたいせいなのだと言い聞かせた。
ベッドのすぐ下に衣類が脱ぎ散らかされていた。コートやジーンズやシャツ。そして、路子の白い下着があることが分かる。ブラジャーのひもが自分のネルシャツの下からはみ出ていた。刺繍の施された弱々しいひもだった。
女の下着というのは、そう見慣れたものではない。何度も「彼女」の裸を見たことがあるというのに、慣れない。自分の部屋に女の下着があるということにいまだ違和感を覚える。
こうやって冷静になると女の下着なんて、なんてことはないのだ。なのに、なんてことのない下着を生身の女が身に付けているとなると違ってくる。バカみたいに興奮する。
「彼女」のことはいま、考えていなかった。考えていたのは、どうして路子を抱いてしまったかということだ。
頭をかきむしって壁にかけてある時計を見た。
九時?
起きたばかりのせいか、目がかすんでいるのだ。瞬きを何度か繰り返してもう一度しっかりと時刻を見た。
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