pro. ○ いつもとかわらない正月の朝

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   いつもの朝だと、降り積もった雪に足跡ひとつないのだけれど、今朝は乱暴にいくつもいくつもある。アパートは細い路地にあるので、これはめずらしい。朝はあまり人が通らないのに。  そういえば、ちょうど新年になったころの夜なかに、人の声がして騒がしかった。薄いアパートの壁から、いろんなひとたちの話し声が聞こえてきた。笑い声とテレビの音。水道の蛇口をひねる音。  このアパートは値段が手ごろだ。学生も入居している。この部屋のとなりには男子大学生が住んでいる。  昨夜は車が何台もとおった。車のエンジンの音がひっきりなしに聞こえた。  初詣にでもいくのか。やはり特別な朝だから違うというのか。こちらにとっては、いつものかわらぬ朝だというのに。  勤めている本屋は年中無休で営業している。なにかと混む本屋だ。昨日の大晦日も仕事。元旦の今日も仕事だ。  毎日七時半には家を出る。地下鉄に乗る。そして職場に向かう。くりかえし、くりかえし、くりかえし。まいにち。朝の行動。やっぱりオートメーションの機械みたいに。  雪が降ると、いろんな音がそれに吸いこまれてしずかだ。だけど、今日はその雪も、音を消すまでにはいたらない。  雪の日の、少しにぎやかな正月。それは部屋の外のはなしだった。  アパートで一人、自分だけがちがうところにいるような気がした。
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