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「メロンでは、」
言いかけた私の言葉は周囲の女の子たちが遮った声によりサヤマくんには届かなかったかもしれない。
「ちょっと、サヤマ!! リンタローは頭打ってこうなってんの!!」
そう、そうなんです、その通り!
髪の長い女の子の説明に大きく同意するように頷いた。
「メロンとか言うな、これはリンタローの頭を守ってくれてんの! 昨日先生が言ってたでしょ! これ以上、リンタローの、その……えっと、ねえ」
もう一人のショートカットの子が私を見ながら遠慮したように言い淀む。
「あー、何だっけ? 記憶喪失?」
そんな空気の中で、面倒くさそうにバッサリ言い放ったサヤマくんに女子たちはデリカシーがない、と怒ってくれていたけれど。
まあ、似たようなものだから。
「そうなんです、一般的に言えば記憶喪失。私の場合は一過性全健忘らしいんですが通常ですと24時間以内に戻ると……、ただもう1週間ほど戻っていないようなので逆行性健忘かも。でも父や母の顔など家のことは覚えているのでそれとは違う、解離性の可能性も無きにしもあらず。 でも、ちょっとよくわからないので要経過観察、らしいです」
私が話し始めた瞬間教室中が水を打ったように静まり返った後で。
「……リンタロー、」
ボロボロと大粒の涙と鼻水を垂らす勢いで、さっきの女の子二人が私を抱きしめて泣き始めた。
「あのリンタローが敬語を話してるなんて」
「やだよ、リンタロー。明るくおバカなのがあんたの取柄じゃない、気持ち悪いよ」
「リンタロー戻って来てよ、お願いだから」
「リンタローがリンタローじゃないなんて、リンタロオオオオ!!!」
……何となく散々な言われような気がする。
不躾で遠慮が無くて、だけど温かさを感じる。
もしかして、この二人はきっと私ととっても仲良しの、えっと。
「夏井 アキさん? 春田 フユミさん?」
私の言葉に二人はハッとした顔で私を見上げて。
「リンタロー、思い出したの?!」
と期待を持った目をキラキラと輝かせて私を見つめているけれど。
「すみません、先生が私と仲良しだった人の名前を教えてくれたもので」
その瞬間に、また二人は泣き崩れたのだった。
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