47人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇
夏休み終了7日前の夜に、私は車に撥ねられたらしい。
らしいというのは自分がそれを覚えていないからだ。
何やら目撃者の話によるとお年寄りを庇って勇敢にとのこと、警察にも称えられたけれど。
記憶もないのでそれが自分自身に向けての称賛の言葉だとは実感もできない。
どう撥ねられたのかもわからないけれど、怪我はほぼない、ちょっと頭に大きなコブが出来ていただけ。
あ、被害は私だけではなかった。
スマホも衝撃で電源が落ちてしまい現在復旧に向けて携帯ショップに入院中、スマホの方が私よりもデリケートだったようだ。
車に撥ねられたことや、その前後の記憶があやふやではあれども。
父と母の顔も覚えていたしCTやMRIでも何も写っていなかった。
頭を打っているし今後1週間は様子を見てね、とだけで。
一晩入院しコブに触れないようにと包帯と果物ネットのようなものを被せられて家に帰された。
だがしかし、私の何かがおかしい、と母が気付いたのは3日前の夜、夏休み終了2日前。
「そろそろ夏休み明けの準備しておきなさいよ」
の母の一言に私はこう言った。
「何の準備?」
……青ざめて泣いてた母、ごめんなさい。
気付けなくてすまん、と肩を落とした父、ごめんなさい。
私も何でこうなってんだかわかんない、悲しませちゃってごめんなさい。
そうして診断を受けた私に下ったのは、どうやら人よりもちょっと長めな一過性全健忘、運が悪ければ逆行性健忘に発展?、解離性健忘の可能性も捨てきれはしないけれど、ちょっと様子見ましょうか、何かの形で記憶が甦ることもありますし、だった。
医者が笑って誤魔化している?!
肩を落とす父と母に何も声をかけられず。
連絡を受けた先生と校長先生まで駆けつけてくれて今後のことを話し合って。
身体だけは健康そうなので学校に通うことは可能でしょう、学校でもサポートできることはしていきますね、と先生たちが私ではなくて両親を励ましていた。
だって私は元気そのものなのだから。
◇◇◇
最初のコメントを投稿しよう!