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私は貴方の何ですか?
風邪を引いた。
医者には治せない類いの風邪を。
それはとても長く拗れ、捻じれ、複雑に絡まり合い、私の中に深く深く住み着いていた。
「お前もすればいいじゃん!!」
この、逆ギレのような言葉を聞くまでは。
夫が浮気した。初めてではない。
付き合っていた頃から何度諫めても女遊びをやめない彼は、「 本命はお前 」と口癖のように囁き、私の罵倒を煙に巻いていた。
別れようと思ったこともある。言ったこともある。
でも彼は了承してくれなかった。「愛してるのに別れたくない」と言って。
何て勝手な人なのか。
じゃあなんで浮気を繰り返すのよ。
そう思うのに、私は心のどこかで安堵してしまう。
花に惹かれる蝶のように飛び回っていても、最後に帰って来るのは私の所。選ぶのは私の所。
歪な優越感。
彼に遊ばれる女と私は違う。特別なんだ。
泣かされても泣かされても、懲りない愚か者の思考は、プロポーズをされた時に振り切れ、叶わぬ夢を見た。
結婚すれば。
家庭を持てば。
落ち着いてくれるかもしれない。
キチンと誓約を交わす間柄になることは、私達だけの問題では済まされないから。
それが分かっていると思っていた。
だから、変わると期待してしまった。
間違いに気付いたのは結婚後二週間経ってから。
新婚なのに彼は連絡もなく朝帰りしたのだ。
まさか、まさかよね?
仕事だと言う言葉に黙って頷いたけれど。
連絡することも出来ないほど忙しかったの?
それを皮切りに、一回、二回、三回……両方の手を超えた辺りから数えなくなった。
付き合っていた頃より更に悪化している。
一緒に暮らし始め行動が筒抜けになったから、正確な頻度を把握出来ただけかもしれないが。
朝帰りしない日は、不貞したとは思わないほど至って普通に話す、触る、笑う、聞く、私の機嫌の悪ささえ、甘やかしという手管で有耶無耶にし、良き夫、妻に尽くす夫の態度を崩さなかった。
それに絆され、流され、許す自分がいる。
終わりの見えない無限ループ。
ドロ沼だと分かっていても這い上がれない。
私は疲れていた。
すごくすごく、ものすごく。
ある日、いつも穏やかな夫が珍しく苛々していた。
聞けば、人事異動による配置換えで、合わない上司の下でストレスが溜まっているとのこと。
慰め、励ましたけれど。
夫はそれから、二日続けて帰って来なかった。
連絡がないのはいつものこと。
メールの返信がないのもいつものことだ。
でも二日、二日、家をあけたことはない。
初めてのことに動揺し、寝てないこともあって朝に帰宅した夫をいつになく激しく責め立てた。
それがあの結果。
私があの言葉を夫から引き出したのだ。
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