ワタシは宇宙人「雲を消した日」 #01

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ワタシは宇宙人「雲を消した日」 #01

母親になってからのわたしは、とにかく子育てという現実や、生活の為に働かなければならない現実に追われていた。 自分が生まれてきた時の記憶など、とっくにどうでもよくなっていた。いつの間にか、子どもの為、夫の為、生活の為、と自分の為は二の次になっている事が当たり前だった。 毎日が現実的で忙しい日常だったが、仕事の昼休みだけは唯一ひとりだけの時間ができる。 その日もいつものようにお昼を食べて、新鮮な空気を求めて外に出た。そこには青空と綿あめのような雲が広がっていた。そして、不意に思い出したことがある。 それは子供の頃の思い出だ。 わたしの住む家は〝山の中〟にあり、文字通り山道を登っていったところにある。車なんて滅多に登って来ない。 小学校から家に着くまで、子供の足で優に40分程かかった。そのうんざりする坂ばかりの帰り道。そんな時は空を眺めながら、わたしは小さな雲を消しながら歩いて帰っていた。 大きな雲は難しいが、ぽつんと浮いている小さな雲は消すことができた。 程よい雲を見つけると、消しゴムでこするようなイメージをするのだ。そんな時はいつも頭の頂点より少し手前の部分がジワジワ温かくなるのが分かった。 そこがジワジワと温かくなると、雲は少しずつ薄くなって最後は消えていくのだ。 小さい頃はそれを友達や大人に話すと、決まって笑われた。「また変な嘘ばっかり言って」と。 "なつかしいな…。あれって、気のせいだったのかな。" わたしはその記憶が「気のせいだった」という結末になったことを笑ってやろうと、昔のように手頃な雲を見つけて意識を集中した。 しばらくすると、昔のように頭の頂点よりやや前の部分がジワジワして来た。感覚はだいぶ鈍っていたが、雲は薄くなって消えていった。 "やっぱり嘘じゃなかったんだ!!" なんだか嬉しくなった。嘘をついていなかった自分を認めてあげた気持ちだった。 "いつの間にか生きてるうちに、わたしはのんびりと空を眺めることをすっかり忘れていた。" 子どもの頃を思い出すと、なぜかむず痒い感覚になる。あまり思い出したくない事も多々ある。 小さい頃は周りの大人から「変なことを口にするな」と何度も注意されながら、どれは口にして良くて、どれがダメなのかサッパリ分からなかった。 ただ "あの人、もうすぐ病気になっちゃうよ" とか "あの人もうすぐ死んじゃうね" など口にした時は、周りの大人にこっぴどく怒られた。 子どものころは、独特な臭いとか直感でその人があまり良い状態じゃない事がわかる時があった。 だから今のうちに何とか伝えなければと思って話すが「縁起でも無いことは口にするもんじゃない!」といつも強く言われた。子どもなりに、それは言ってはいけないことだと学んだ。 そしてわたしはいつの間にか現実的でない事に対し、とても疑い深くなっていた。非現実的な不思議な出来事が起きても「気のせい」とか「ありえない」と思い込むようにしたからだ。 いつからか大きくなるにつれて、子どもの頃に感じていた沢山の感覚に、ひとつ蓋をして、またひとつ蓋をしてと繰り返して行った。 気がつけば、子どもの頃の感覚などとっくに忘れていた。 別に忘れていても良かったのかも知れない。 なぜなら… "嫌でも思い出す出来事が、これからたくさん起きてくるからだ。"
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