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2話 小さな冒険
薫と潤はすたすたと歩く黒猫に付いて歩いて行く。黒猫は迷う素振りも見せずに進んで行く。
ここは郊外。要するに田舎だ。家の周りもそうだが緑が多い。少し歩けば木々が生い茂る林が見えて来る。黒猫はそこに入って行った。ふたりも付いて行く。
最初は左右に木々が生える道だった。舗装なんてもちろんされていないので、少し足場が悪い。そんな道も黒猫はするすると歩いて行く。
すると徐々に木々の様子が変わって来た。まっすぐ上に伸びていたはずの左右の木々が次第にアーチを作る様に内側に弧を描き始める。
そしてそれは段々と背が低くなって行く。ついに薫と潤は腰を曲げなければ進めなくなった。
「ちょお、どないなっとんねんこれ」
「こんな木の生え方初めて見たよ。木ってこんなんになるの?」
「俺もこんなん初めてや。おいおい、もっとかがまんと行かれへんでこれ」
ふたりはとうとう四つん這いになって木々の間を縫って行く。まだ昼なのに明かりも入って来ず、うっそうとした木々のトンネル。
しかし奥に明かりが見えて来た。そこに向かう黒猫を追う様にふたりは手足を動かした。そして。
「うわ」
「うわぁ」
広がる光景にふたりは声を上げる。ずっと石畳の道が続き、斑や三毛など様々な模様の猫が行き交っている。道の両脇には小振りな建物が並ぶ。ふたりは立ち上がりながらそれを眺めた。
「ここは猫の国なのですニャ」
そんな少年の様な声が足元から聞こえて来て、ふたりは顔を見合わせる。下を見ると黒猫の姿しか無い。
「僕ですニャ。いつもご飯を食べさせてもらっている黒猫ですニャ」
「は?」
「え?」
ふたりの声が重なる。慌てて黒猫を見ると、そこに腰を下ろした黒猫がにっと笑った、様に見えた。
「はい。僕ですニャ」
「はあぁぁぁぁぁ!?」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
薫も潤も驚いて大声を上げた。猫が喋るなんてそんな、ありえるのか。いや、無い。
「んなあほな!」
「だよね! いくら何でもね!」
「おふたりが驚くのも無理は無いですニャ。でもここは猫の国なのですニャ。猫が喋れるのは当たり前なのですニャ」
さらに響く声に、ふたりは呆然と視線を黒猫に注ぐ。
「ほんまに、黒猫か?」
「はいですニャ。僕の名前はカガリと言いますニャ」
「いやいやいや、どっきりとかじゃ無いの?」
「薫さんと潤さんにどっきりを仕掛けても何の得も無いのですニャ」
「それはそうかも知れないけど」
「おふたりとも、これは夢だとでも思って、この国を楽しんで欲しいですニャ」
動揺する薫と潤に黒猫、カガリは言い、口角を上げた。
「そ、そうか、まぁ夢やったらな」
「そうだね。何でもありだね」
ふたりはほっと表情を和らげると、ぎこちないながらも小さく笑みを浮かべる。カガリは嬉しそうににっこりと笑った。
「ようこそ、猫の国へ!」
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