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黒猫はまたひと声「にゃあ」と鳴く。
「かわいいなぁ。黒猫だぁ」
潤が身体をずるずると引きずって黒猫に手を伸ばすと、黒猫は喉元をくすぐるそれをおとなしく受け入れる。
「うわぁ、人に慣れてるんだねぇ」
「婆ちゃんが餌やっとった猫やからな。俺らが遊びに来とった時にもよう餌もらいに来とったわ。よし、俺らの飯の前に餌やろか」
薫は持って来たバッグからフリーザーバッグに入れた猫餌を出し、餌入れに入れてやる。一般的なかりかりだ。それを縁側の黒猫のそばに置いてやると、黒猫はまた嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
潤が手を離すと、黒猫はさっそく餌入れに顔を突っ込む。かりかりかりと小気味好い音を立てながらがっついた。
「もっと頻繁に来れたら良いんやけどなぁ。こいつにももっと餌やりたいし。普段どうしてるんやろ」
薫が言いながら餌に夢中の黒猫の頭をそっと撫でる。
「そこは野良猫なんだからどうにでもしてるって。それこそよその家からもご飯もらってるかもだよ〜」
「やったらええんやけどな。1日分ぐらいやったら置いとけるけど、あんまり置いといたら他の動物も寄って来るかもしれんから、庭荒れてまうしな。難しいところやわ」
「そうだねぇ。でもよく薫がここにいるポイントでここに来るよねぇ」
「もしかしたら毎日来とるんかも知れん。それやったら誰もおらん時やったらがっかりしとるかも知れんなぁ」
「猫なんて気まぐれなもんだよ。いなかったらいなかったで適当にどっか行くって。ここにだって餌くれるから来てるだけかも知れないよ」
「シビアやな。でも猫やしそんなもんかも知れんなぁ。お、食い終わったか。旨かったか?」
黒猫は空になった餌入れを前に顔を上げて、また「にゃあ」と鳴いた。なんとも可愛らしい。薫はまた頭をそっと撫でた。
すると黒猫はすっと立ち上がり、ひらりと庭に降りて向こうにゆっくりと歩いて行く。
「はは、餌食ったらもう用無しかい」
薫が笑うと、黒猫は少し行ったところで足を止める。そして首だけを曲げてこっちを見た。
宝石の様な輝く丸い眸が薫を見つめる。薫は「ん?」と立ち上がる。
すると黒猫は目を向けたまままた数歩歩みを進める。そしてまた止まった。
「どうした?」
薫が言うと、黒猫はまた「にゃあ」と鳴く。薫が首を傾げるとまた「にゃあ」と一声。
「あはは、まるで付いておいでって言ってるみたいだよね」
潤の何気無い言葉に、薫は「おう」と頷く。確かに薫にもそう思えた。
薫はばたばたと玄関に向かうと自分と潤の靴を持って戻って来る。それを縁側の下に放り出しバッグを持つと。
「行ってみるか」
自分のスニーカーを履いた。
「僕も?」
「どっちでもええで」
「興味あるし行こうかな」
潤もバッグを持つと、薫の横でスニーカーを履く。ふたり並んで庭に立ち上がり黒猫に向かって歩くと、黒猫は満足げに歩き出した。
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