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3話 猫のご飯屋さん
薫と潤はカガリの案内で道をのんびりと歩く。
「お店が集まっている一角があるのですニャ。そこなら薫さんも潤さんもお楽しみいただけると思いますニャ」
「へぇ、店とかあるんや」
「面白そうだねぇ」
「ありますニャ。ボールとか売っていますニャ」
「おもちゃやな。そうやな、犬もやけど猫もボール好きやもんな。遊び方は犬とちゃうけどな」
「はいニャ。ボールをごろごろするのが楽しいのですニャ。そろそろですニャ。ん? おや?」
カガリが首を傾げる先を見ると、何やら数匹の猫が集まって騒いでいた。
「どういうことだい。じゃあわしらどうしたら良いんだい」
「本当よう。どうしたら良いのよう」
「困りましたわねぇ」
そんな声が上がっている。カガリがそんな中に「どうしたのですかニャ?」と声を掛ける。すると貫禄のあるぶち猫が鼻息も荒く言った。
「おうカガリか。いやさ、めし屋が開けられないって言われてよう」
「どうかしたのですかニャ?」
「料理人を連れて来られないって言いやがってよう」
すると奥から困り顔の三毛猫が姿を現した。
「実はねぇ、いつも来てもらってる料理人が今日熱を出しちゃってねぇ」
「店主さん、そうなのですかニャ。代わりの方はおられないのですかニャ?」
「何せ急なことだったからねぇ」
店主もすっかり困り果てている。薫と潤は訳が分からずきょとんと顔を見合わせた。
「カガリ、どうした」
薫が聞くと、猫たちの視線が薫に集まった。薫は驚いて目を瞬かせる。
「お、人間じゃ無いか。この人らにどうしかしてもらえないのかい?」
どういうことだろう。薫は首を傾げる。
「この方たちは今お連れしたばかりなのですニャ。この世界の事情を何もお伝えしていないのですニャ」
「そうなのかい。じゃあ無理強いはできないか」
カガリのせりふにぶち猫は残念そうに言う。
「あの、良かったら話を聞かせてください」
潤が言うと、カガリは店長だと言う三毛猫と顔を見合わせる。
「ここはご飯屋さんなのですが、調理は毎日人間さんにお願いしているのですニャ」
「そうなの?」
「はいですニャ。僕たち猫は料理ができないので、いつも人間さんに来てもらっているのですニャ」
「そうなんだよ。でも今日はその人間の人が熱を出してしまってねぇ。ご飯屋はここだけだから困ってるんだよ」
「ご飯を作れるのは人間だけなんですか?」
「ご飯だけじゃ無くて、この世界は人間の人にいろいろとしてもらってるからねぇ」
猫の世界なのに? と薫はまた首を傾げる。しかしそれならば。
「やったらさ、そんな難しいもんで無いんやったら俺が作ろか?」
薫が言うと、また皆の視線が薫に集まった。
「本当かい、兄ちゃん!」
ぶち猫が興奮した様に食い付いて来た。
「ああ、薫は料理上手だもんねぇ」
潤が言うと、三毛猫が「しかしねぇ」とためらう。
「この世界に来てもらったばかりの人に、そんなのお願いして良いものかねぇ」
「俺料理は好きやしな。いや、ほんまにややこしいもんは作られへんから満足してもらえるかどうか判らんけど、とりあえずやったらしのげるやろ」
「薫さん、良いのですかニャ?」
カガリも遠慮がちである。薫はにっと口角を上げた。
「おう、ええで。そん代わり難しいもんは無しな」
「僕も手伝うよ」
薫と潤が言うと、カガリと三毛猫はほっとした様に顔を綻ばせた。
「じゃあ今日だけお願いしようかな」
「助かりますニャ。僕もお手伝いしますニャ」
「おう」
「じゃあ案内するね。こっちだよ」
薫と潤、そしてカガリは三毛猫の案内で店の中に入って行った。
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