東軍の大将

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 七月二十四日。  この日、伝令にて三成出陣の報を聞いた。家康が最も期待していた報であった。 「七月十九日に西軍、石田三成が挙兵した模様です。目標は伏見城」 「ついに動いたか三成」 「上様の思惑通りですな」直政が相槌を打つ。 「愉快々々。笑みが止まらぬは」  笑うと三重になったあごが下品に弾み、不恰好になるが、それでも家康は笑いを堪えきれなかった。  手の上で面白いようにコロコロと転がっているのだ。三成がではない。日本が。家康の思い通りに。  基本戦略はこうだ。  三成に大軍を起こさせ、日本の中心にて大決戦を行う。そこで反家康派の諸将を見極め、ことごとく殲滅し、一挙に天下を手中に収めるというものだった。  家康ほどの謀略があれば、重臣供を懐柔し、決戦なくとも天下を取ることはできよう。しかし、それでは豊臣家の最高顧問として家康がいるだけになってしまう。  違う。  頂点に君臨しなければならないのだ。徳川の世にするためには、歴史に残る決戦を制し、全国に徳川というものを見せつけなければならないのだ。  そのために三成はあえて泳がせておいた。そして、家康が江戸を出ている隙に三成は挙兵した。それが家康の誘いだとも知らずに。 「直政。ここに皆を集めさせよ。軍義を開く」 「はは。仰せのままに」  瞬く間に諸将が集まってきた。
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