東軍の大将

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 獰猛な獅子や猪、猛禽類のような武将たちがひしめきあった。この者たちは皆、家康の下知を待っている。  だが家康は言葉を発しない。かわりに人差し指を頭上に掲げた。  家康は乱世の雄である。  力強く脈打つ心臓から流れ出る血液には、戦国の匂いが染みついていた。その血は身体中を駆け巡り、力をみなぎらせて指先に到達した。  本物の強者は矢など使わない。刀にも頼らない。指先である。  諸将の目線が一斉にその指先に集まっている。  家康は、そのまま一息置いた。  固唾をのむ音も聞き取れるほど静寂に包まれている。研ぎ澄ました日本刀の切っ先のように鋭利な空気は、家康の指先が作っていた。 「皆のもの。よくきけ」  腹に響く声だった。地を這うように低く、それでいて音の輪郭は明確に縁取られている。支配者の声だと言ってもいい。  家康は、指をゆっくりと降ろしていき西を指した。  「今から西へ向かう。逆賊、三成を討伐せん」  沸く。空気が震える。  時が動いた。
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