高次に流れるもの

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「いよいよ。始まりましたな」 「わかっておる」 「このごにおよんで、決断をしないとは言えませんぞ」 「わかっておる」  高次と門斎の間には重々しい空気が流れていた。それもこれも高次の優柔不断のせいであるが、やはり人はそう簡単に変われるものではない。高次は未だに迷っていた。 「今、三成殿は伏見城を攻めております。陥落するのも時間の問題でしょう。もし西軍に敵対するのであれば、その後は当然、大津城が標的になりましょう」 「わかっておる」 「西軍と戦うか、大津を守るために西軍の味方になるか……」  門斎はいつも以上に眉間の皺を深くしていた。 「申し上げておきますが、西軍が怖いわけではありません。もし戦うというのなら、名家の名に恥じぬ戦いをします。ただ、決めてもらわねばなりません。高次様。あなたは城主様ですぞ」 「わかっておる」  「わかってなどおらんではないか。なんと情けない」とは言えないが、門斎は高次の態度を見て落胆した。  駄目だ。門斎では高次の心を動かすことができない。この臆病者に決断をさせるにはもはや劇薬を飲ませるしか方法がないのかもしれない。しかし、そんなものは日本全土探しても存在しないだろう。  高次は自信なさげに口を開いた。
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