高次に流れるもの

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「門斎……。やはり争わねばならんのか」  門斎は唇を震わす。 「と、当然ではありませんか。よもやここに至って逃げると」 「違う」  門斎は固まったように動かない。ただ、目を丸く見開いている。 「ただ、戦わなくてもいい方法がないのか、と思っただけだ」  門斎は返事をしようとするが、口を金魚のように動かすだけで言葉が出てこない。  西軍に与すれば一時戦わなくてもすむ。しかし、その後東軍が相手になる。この場所に居を構える限り、戦いは決して避けられぬ。 「わしは太閤が天下を治めたときもう戦は終わったと思った。朝鮮の陣はあったものの日本は平和だった。いや、税は辛かった。苦しんだ。しかし、戦をするよりは平穏だったではないか。わしは住み所と琵琶湖さえあればそれで良い」  人であれば自然と持つ平和を愛する心、とは言い難い。ただこの現状から逃れたいがために出た言葉だった。  門斎は開いた口がふさがらなかった。  戦国の世を生きてきた者にとって到底受け入れられる考えではない。  武功を立てることによって自身の存在価値を証明してきた。血を浴び、屍の山の上に立ち、吠え、綱渡りのごとく生きながらえてきた。そういう者にとっては、むしろ戦いの中が生きる場所であり、戦いの中にしか居場所がないものさえいた。門斎もそうである。  高次はどうだ。戦場には何度も出ている。しかし高次は……。
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