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「高次様。お願いします。先祖が泣きますぞ」
門斎は涙を流していた。
代々京極家を支えてきたこの男は傅役だったこともあり、家臣で唯一高次に苦言を言うことができた。しかし、これ以上、高次と話せば、感情的に無礼な発言をしてしまい、城主としての尊厳を貶めてしまうかもしれない。
それを抑えた上で、門斎が絞りだした最後の壁が血だった。
京極という名家の血を引き合いに出すしかもはや方がなかった。高次の奥に眠る血を信じ、その本性を呼び覚まし、高次の心を動かしたい。
しかし当の本人は、その血を最も嫌っている。京極であったがために、身分不相応な位置に自分がいるのではないか。自分は所詮、大将になるべき器ではないのだ。という思いがあった。
「五月蝿い! 先祖、先祖。京極、京極。その先祖様とやらなら正しい決断ができるのか? どうなんだ? 一度で良い。先祖様とやらに会わせてみろ」
高次は怒鳴り返したが、その直ぐ顔を赤らめた。なんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう、死んだ人間に会えるはずがない。
その時、門斎は何かを思いだしたようにはっとした。そして少し悩むと意外な返事をした。
「もしかしたら、一つだけ方法があるかもしれません」
「なに?」
「いえ。俊道僧正様ならもしや何か知ってるかもしれないと思いまして」
「俊道僧正? 何者だ」
「霊を知っておる者です」
高次は決断したくなかった。何かいい考えがあるのなら霊でも妖怪でも信じてみようと思った。
その思いは門斎も同じである。高次を動かすためなら、もののけでもあやかしでも信じるほかなかった。
「説明している暇はありません。行きましょう」
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