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「立花はまだ来ぬのか」
「あと10日はかかかりましょう」
立花宗茂。
天下無双と謳われる豪勇である。
その昔、秀吉に「この世に天下無双の男二人あり。東国の本多忠勝*、西国の立花宗茂じゃ」と称されていた。朝鮮出兵時には800の兵で2万2000の明軍を撃破するなどの武功を立てている。
三成としては、これほど頼もしい男もいない。
宗茂は引く手あまたである。実は家康の触手は伸びていた。宗茂は破格の待遇を約束されたが、「太閤に恩義があってこそ今の自分がある」といい迷わずに西軍についた。忠義の男である。そればかりでなく、宗茂の人徳を讃える逸話も多い。
忠義。人間性。武力。
どれをとっても日本随一の者であることは間違いない。
「三成殿。私達では心許ないですか?」
「いや、そういう訳ではない」
三成は宇喜多秀家の機嫌を損ねたと思ったのか頭を下げた。三成自身、突出した武力があるわけではないため、大兵を持つ大名の存在は貴重だった。
「ふふふ。冗談ですよ。からかっただけです」
火縄銃の音と音がぶつかり、重なり合い、轟音となって豪雨のように降り注いでいる。どす黒い煙が伏見城を覆っていった。
宗茂がいなくても影響はない。伏見城が落ちるのは時間の問題だろう。
「次は大津城か」
「高次殿はどうするんでしょうね」
「味方になる。大津城を貰えたのは故太閤様のおかげではないか。その恩義に報いるはずだ」
「でも返事はまだないんでしょう?」
「ない……。もし、敵になるならば……蹂躙するまでよ」
既に目標は次の段階に移っていた。
※本多忠勝:徳川家康の配下。戦場でかすり傷すらおったことがない。
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