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戦国時代に入ると京極家は衰退を始める。家臣の浅井家に下克上をゆるし、逆に浅井の家臣として生きる羽目になった。
高次の父、高吉の代になると京極家は滅亡寸前まで落ちぶれた。しかし、高吉の兄、高広は諦めていなかった。
「高広様も勇敢なお人でした。山城を多く作り、山を縦横無尽に駆けめぐっては戦っていました。男鬼入谷城、八講師城、鎌田城、他にも。しかし、いまやそれらも廃城となってはいますがね」
「わしの伯父はそんなにも勇敢だったのか」
門斎が握りこぶしを作っている。僧正の話に、そして京極の戦に興奮していた。
「そうです。死ぬ間際まで京極家の再興を夢見て、奮戦しておりました」
「京極家の……再興……」
「私は高次様に期待しております」
僧正は微笑んで冗談を言った。
「それに、京極家が絶えたら、この寺の美しさがもったいない」
僧正の言葉は、高次の中に自然と入ってきた。
ーー京極家の再興。
若いころ考えたことはある。自分は特別な存在だと思っていたこともあった。
織田信長が本能寺の変で破れたとき、混乱に乗じて、京極家を再興しようとしたのだ。
しかし、秀吉に破れ、誇りを無惨に踏みつけられ、妹の尻の力で生き長らえた。
それでわかったことは自分の力の無さであり、力量に見合わないことをしたものの末路であり、無駄な夢をなんて見るものではないということだった。
「わしには無理だ」
門斎が高次をきっと見つめた。弱音を吐くなと言いたいのであろう。
「わしはそのような器ではない」
「いいえ。高次様、あなたは天に守られている」
「その話はもうよいのだ」
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