51人が本棚に入れています
本棚に追加
薄暗い船倉の中に一人の老人が背を向けて屈んでいた。宗茂の存在に気付くと顔を向けた。
「外は賑やかですね」
「ああ、面白い。お主も踊らぬか」
「某は結構です。似合わないでしょう」
「たまには良いぞ」
「ご冗談を」
老人は小野鎮幸という。立花家、古参の猛将であった。職人気質な所がある。外の世界になど興味がないかのように、一心不乱に鉄を磨いていた。
「ふらんきの調子はどうだ?」
「上々です」
船倉の中には滑車があり、その上にあるのは禍々しい鉄の造形品だった。人の体の二倍はあるであろう大きさ。色はくすみがかったような暗緑色で、細長く、先端には丸い穴が、背中には四角形の大きな穴が空いている。圧倒するような迫力があり、あたかも龍の模造品でないかとさえ思える。
franky。当て字で仏狼機と書く。
口径9cm。全長290cm。
大砲である。
これはかつての主君から譲り受けたものだ。
宗茂の主君、大友宗麟*はイエズス会との関係が濃厚であった。キリスト教の全面的な布教に協力することを約束し、かわりに特権的な貿易を認められていた。特に力を入れていたのが、武器の輸入である。
その取引で最大の物が仏狼機砲だった。戦国の世に初めて現れた日本最古の大砲で、輸入後、自国でも鋳造して開発を試みていた。宗麟の死後、これらの大砲を宗茂が譲り受けている。
原始的な後装砲で、照準が合わないなどの弱点も多数持ちながら、火縄銃を主体とする戦国の世では、その威力は絶大だった。
※大友宗麟:キリシタン大名。洗礼名は、フランシスコ・ザビエルから名をもらってドン・フランシスコとしている。
最初のコメントを投稿しよう!