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霊山
次の日、高次達は鬱蒼とした森に足を踏み入れた。じめっとした空気が肌にまとわりつくが、不快感はなかった。
「確かに不穏な感じがする。霊が出てもおかしくないな」
「高次様。そういえば、霊に会ったときどうなさるつもりなのですか?」
高次は答えなかった。いや、答えられなかった。正直なところ、勢いで霊山に来てしまったため、明確な目的は存在しなかった。
先祖の霊に会い、自分がどう決断すれば良いか聞けばいいのか。もしくは、なぜ儂が京極家の当主なのか、と思いの丈をぶつければ良いのか。そもそも、霊に会ったところで現状の何かが変わるのか。すべて未知数でしかない。
霊に会うという奇蹟を信じ、そしてその奇蹟の付随効果を期待するしかない。
「登ろう」高次は上を見上げた。頂上は見えない。
道は一本道だった。地には落ち葉が絨毯のように散らばり、道を覆い隠している。背の高い針葉樹がところ狭しと生い茂り、近くに川が流れているのか、せせらぎが聞こえる。
「水を取りますか」
門斎は沢を探して水筒に水を入れた。冷たい。そして上手い。
「生き返るようだな」
高次と門斎は一気に飲みきり、また水筒に水を入れた。霊山から涌き出た水は神仏の力が宿ると言われている。信憑性は定かではないが、水分が末端まで浸透し、力がみなぎる感じがした。
しばらく歩くと小山の上に廃城が見えた。
八講師城跡である。
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