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見晴らしが良い。日差しを遮るものがなくなり太陽が眩しくなった。西を見下ろせば琵琶湖の端が見えた。
ーー登ったな。
少しだけ達成感に満たされた。どれだけ歩いたのだろう。四半刻ほどは歩いたかもしれない。脚に疲れを感じる。一息ついて上を見上げた。なだらかな稜線の上に青天井が見える。
「門斎。もうすぐ頂上ではないか?」
返事はなかった。おかしく思って周囲を見渡すと門斎の姿はない。どこかではぐれたのか、検討もつかない。
「門斎のやつめ。いつも偉そうなことをいうわりにばておったか」
高次は先に頂上の眺望を望もうと、門斎を置いてさらに登った。勾配が緩くなったおかげで随分らくになり、足の歩も速くなった。
さっきまでの景色が嘘のように木々は一つも生えていない。代わりに生えているのは石だった。膝丈ほどのものから背丈ほどのものまで大小様々な尖った石が無数に群がっている。
色が白い。石灰岩だ。根は太く、先にいくほど細くなっていき、合掌した両手のように見えた。どの石も皆、天空に向かって拝んでいた。何を思い、何を祈っているのか、その表情は寂しげに見える。泪のように、縦に複数の線が入っていた。
この石柱郡はカレンフェルトと呼ばれており、石灰岩が雨水に侵食されてできたものだ。水捌けが悪く植物は成長できない。カレンフェルトは稜線にそって延々と連なり、山頂まで繋がっていそうだった。
ーー参拝のようだ。信心深い石達だな。
高次は石を踏まないように、石と石の間を歩いた。力強い一歩一歩だった。ここまで来たのなら必ず頂上に行く。目的は純粋だった。霊に会うことでもなければ、決断することでもない。ただ、頂上の土を踏みたかった。
その時、急に突風が吹いた。
高次はバランスを崩して転倒し石にぶつかった。
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