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__じょうぶですか? 高次様! 大丈夫ですか?」
高次は目を覚ました。
「もん……さい……? 夢か」
目の前には門斎がいる。
「心配しましたぞ。山頂で倒れておられたので、もしや死んだのではないかと」
声が震えている。頬には涙の後がみえた。
「死にはせん。そういえば寺は?」
「寺とは……。はてなんのことでしょか?」
高次は土くれに寝そべっていた。周囲は一面、石灰岩で人工物は何も無い。
「確かに寺があったのだ。嵐にあい、寺に逃げ込んだんだが」
「嵐? ずっと天気は良かったですが。寺も良く分かりません」
確かに快晴だ。
あやかしか、と高次は思った。だとすれば、やはりあやつは先祖の霊だったのか。
「門斎。わしは会ったぞ、先祖の霊に」
「なんと! どうされましたか?」
ーー尊厳を踏みにじられ、ばかにされた。
そんなことは言えない。高次は拳を握りしめた。
先祖の霊にあってわかったことは、一つだけしかない。
卑下されることにおいて、高次は唯一無二の存在だということだ。
「どうもこうもない。何もしておらんし、何もなかった」
高次は立ち上がった。
体は動く。しかし、皮膚や骨に痛みが残っており、とても幻だったとは思えない。そして、心には深々とした切り傷が残っていた。
「高次様、もう少し横になられた方が」
「心配せずともよい。大丈夫だ」
「心配にもなります。貴方は私達の……私の最後の希望なんです」
「わしがか?」
「当然ではありませんか!」
門斎の声は痛々しく弱気で、それでいて誠実だった。
高次は意外に感じた。普段高次に厳しく接しているが、それは愛情から来るものだったのだと初めて実感した。
ーーわしを……信じてくれる者もいたのか。わしは一人ではなかったのか。
なぜか一筋の涙が流れた。
心強い感情だった。今まで辛抱していたものが和らいだ気がした。思えば長い間一人で戦っていた気がする。高次の心は、生まれ変わったと錯覚するほど軽くなった。
それと同時に今のままではいけないと強く感じた。信じてくれる者のためにも、目をそらしてはいけないものがある、忘れてはいけないものがあると感じた。取戻さなければいけないものがあると感じたのだ。
「門齋。心配するな。大丈夫だ。わしは本当に大丈夫なのだ」
ーー竜子。強く生きるということがわかったかもしれん。一人で耐え忍ぶのではない。きっと、信頼できる者と共に歩むことなのだ。
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