進軍

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進軍

 高次の行動は遅かった。  嫡男、熊磨を大阪城に送り届けると、具足の仕度をした。ほつれを縫い、汚れを落とし、艶が出るまで磨いた。馬を用意し、毛並みを揃え、鞍を整えた。豪華絢爛な軍が出来上がってきた。  しかし、それにしても遅い。軍の準備が出来ぬうちに、既に吉継は一戦を交えている。 「高次様。準備が整いました」と門斎が言う。 「まだまだ。なるべく立派な武具を揃えよ」  高次は見た目に拘った。いや、準備に拘ったといった方がいい。戦への参加に積極的な姿勢を見せながら、時間を浪費させようとしていた。  八月も半ば。8日かけて準備が整うと、いよいよ高次の軍は進軍した。兵数2000。まるで威光を誇示するように見せびらかしながら歩いていた。名門京極家が再興したような軍容だった。しかし、世間の声は冷たかった。 「蛍大名らしいわ。格好だけつけて、どうせ戦う気はないだろう」 「高次様はやはり臆病者じゃのお。幾ら時が過ぎても、物怖じして進軍せんではないか」  事実、高次の進軍速度は驚くほど遅かった。
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