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大阪着陣
八月も末、立花宗茂は大阪に着くと、豊臣秀頼に拝謁し、故秀吉からどれだけ恩をもらったか、その恩義にどう報いようとしているのかを述べた。その後、秀頼から三成のいる大垣城へ向かうよう指示された。
「宗茂様。これからどちらへ向かわれます?」十時連貞は宗茂を待っていた。
「大垣城へ向かうことになった。しかし、気になることがある」
「気になることと言いますと」
「秀頼様の言葉に覇気がなかった。やはり、西軍は秀頼様の意思にあらず、三成殿の意思で動いておる」
「そうでしたか。なれば、どういたしましょう?」
「西軍に与することは変わらん。秀頼様はどうあれ、故太閤様に受けた恩義は数知れず。たとえ三成殿の発言であろうと、恩義に報いれと言われれば、応えざるをえない」
「見事な忠義心」連貞は感服した。
西軍の中で、本気で故太閤の恩に報いろうとしていた将は少ない。しかし、宗茂は本気でそう考えていた。忠義という言葉がこれほど似合う男もいない。この忠義心もまた血である。
宗茂は戦国の世のサラブレッドだった。
英雄と呼ばれる父が二人いる。一人が実父、高橋紹運*だ。
紹運は乱世の華と謳われており、類いまれなる肉体と忠義心、そして馬鹿正直な明るさを持っていた。宗茂はこれらは全て受け継いでいる。
「恩に報いることこそ、わしの人生じゃ」
宗茂は豪快に笑った。しかし、その後すぐに、表情を曇らせる。
※高橋紹運:性格に惚れたと天然痘の女を妻にしたり、駄目な主君でも全力で尽くした。
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