誤算

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誤算

 八月も末。大谷吉継は加賀(石川県)にいた。  日本海の海は西軍の混乱を表現するかのように荒れている。亡霊のうめき声のような海鳴りが嵐の到来を予期させた。  この日、吉継は三成からの早馬で信じられない報を聞いた。 「馬鹿な。岐阜城が1日で東軍の手に落ちただと? かつての織田信長でさえ落とせなかった城だぞ」 「はい。そのようでございます」 「信じられん。天下にその名を轟かした堅城がわずか1日か」 「どうやら、そのようで……」 「東軍は化け物か」  西軍が美濃や北陸攻略もまだ終わらぬうちに、東軍は驚くべき速度で西上していた。7月24日に三成挙兵の報を聞くと、すぐさま反転し西を目指した。8月10日には尾張(愛知県)清洲城に入っており、23日に岐阜城を攻略した。その後、三成は一戦を交えるが、負けて撤退した。大垣城に戻ると、各地に散らばった諸将に文を送っている。  吉継はその文で現状を知った。 「三成はなんと申しておった?」 「関ヶ原で決戦を挑むつもりとのこと」 「そうか。では我ら大谷軍はこれより三成本隊に加勢しに向かう」  吉継の決断は早かった。しかし、一つ憂いがあった。後詰めでくるはずの高次のことである。 「蛍大名めは今どこにおる?」 「それがまだ琵琶湖北の賤ヶ岳です」  吉継は元より高次を当てにしていない。しかし、これから刻一刻と変わるであろう事態に対応するため、高次の居場所を確かめた。  ーー遅い。しかし、ちゃんと北上はしているか。良かった。 「では高次殿には引き続き北陸の攻略にあてさせよ。兵を滞在させるだけで戦はせずともよい。加賀の前田に元々戦意はない。おそらく戦にはならん」 「はは。ではそのように申しつけておきます」
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