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ーー三成。はやまった真似はするなよ。
吉継は裏切り者が西軍に多くいるであろうことを予想していた。その筆頭が小早川秀秋である。故秀吉の義理の息子で、能力こそないものの兵力は1万5000とかなり多い。小早川秀秋自体はわからないが、重臣が家康派なため、裏切りの可能性が高い。
三成に勝たせるために、吉継は東軍と戦いながら、小早川秀秋の牽制もするつもりでいた。
ーー三成は味方を疑わぬ。皆、一様に今は亡き太閤様を敬っておると信じておる。だが、わしは違う。味方も正しく疑う。このままでは西軍がバラバラになるぞ。
吉継は下知を飛ばし、軍団を美濃に向かわせた。馬に鞭を打つように、檄を飛ばし軍を駆けさせた。
九月に入った。琵琶湖北の賤ヶ岳の麓についた頃、また吉継を惑わせる報告があった。
「吉継様! 大変です! 高次殿が裏切りました」
「詳しく申せ」
「高次殿は軍を反転させ、大津城に戻ったとのことです」
その頃、高次は「西軍本隊に合流する」という旨を三成と吉継に宛て、軍を反転させていた。しかし、高次の軍の中には朽木元綱という小名が間者として潜んでいたため、この行動が筒抜けになっていた。
「なんだそんなことか。問題ない。中仙道も西近江路も西軍の兵を待機させている。高次めはどの道も通れん。すなわち大津城には戻れん」
吉継は高次裏切りの可能性も考慮していたため、大津城に戻るための二つの街道に既に手を打っていた。
「高次めはほうっておけ。それよりも、我らは急ぎ美濃へ向かう。その道中に蛍大名を見つけ尻でも叩いてやろう」
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