火種

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火種

 暗闇の部屋にろうそくが一つ。  あいたいする二人の男が密談を交わしていた。 「どうだ? 不備があるなら何なりと申せ」 「悪くない。策略としては筋が通っておる。しかし、こう思い通りにいくものなのか」 「あの狸を討ち取るにはこれぐらいの仕掛けは必要だろう。どうだ吉継。わしと戦ってくれぬか」  炎の灯りに照らされて吉継と呼ばれた男がうっすらと見えた。頭巾で顔を覆っている。 「止めておけ。お主では家康には勝てん」 「何を言う!」  炎が揺れた。  もう一人の男の息が荒くなる。   「みな家康を恐れて野放しにしておる。これでは豊臣の世を奪われるのみではないか。わしがやらずして誰が家康をやる」  吉継の表情は頭巾で見えない。しかし、顔の角度から悩んでいることが窺えた。 「本当にやるのか? 日本がまた戦乱の世に突入するぞ」 「やむを得んことだ」  長い沈黙が続いた。 「兵はどうする。家康に対抗する戦力が必要だぞ」 「今、集めておる。毛利、宇喜多、上杉、小早川。そして立花。他にもいる」 「兵を集めておるのは知っておる。だが信用できるのか?」 「当然だ! だが足らん。吉継。お主の助けが何よりも必要なのだ」 「ふむ」  ろうは溶けてつぶれ、米粒ほどの青白い炎だけが残っている。 「三成。儂とお主は無二の親友だ」 「当たり前だ」 「お主を死なすことはできん。付いていこうぞ」  炎は消え、瞬間白い煙が宙に舞い、完全な暗闇になった。しかし、その奥で二つの炎が燃えていた。石田三成の両の目がぎらりと光る。 「感謝する。共に戦おう」  石田三成と大谷吉継。二人の男が密かに動き出した。 「まずは奥州の上杉に(えさ)になってもらう。家康を江戸から追い出すのだ。そして、その隙にわしと吉継で美濃、伊勢、北陸を平定しようぞ」
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