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「蛍は弱い。蛍の命は短い。だが立派だ。その短く小さな命を輝きで燃や尽くす生き物なのだ。その輝きは、淡く儚い。しかし、蛍にしか放てない唯一無二の輝きなのだ。
わしは……。わしは、わしにしかできない輝きを放ちたい。この自分の分身ともいえる大津城と共に、琵琶湖と共に戦いたい。京極の誇りを取り戻したい!
籠城戦が怖いものは今から西軍に降伏してもよい。止めはせん。しかし、わしと戦ってくれるものは命を輝きで燃やし尽くそうぞ! 戦国の世を照らす光になろうぞ!」
皆、しんとしていた。戦って誇りを取り戻す。高次の強い言葉を聞くのは初めてだった。
「異議のあるものはおるか?」
しばらく無言が続いた。
異議などあろうはずがない。なぜなら高次は愛されていたからだ。
蛍大名と揶揄され、馬鹿にされていたことは事実である。大名から庶民にいたるまで多くの人が蛍大名と呼び蔑んだことも事実である。
しかしそれは、戦については、である。
高次の内政は労りと思いやりがあった。高次が大津城に来たとき、大津はまだ発展途上で、この町に彩りを加えたのは高次だった。未完成の大津城を完成させ、美しい町にしたのも高次だった。琵琶湖の湖面のような高次の人柄が染み渡っていた。大津に住む者はみな高次が好きだった。
「高次様! その言葉を待っておりました!」この大声は山田大炊介だ。
「高次様がそういうならあっしは死ぬ気で戦いますよ」
「たまには体を動かそうと思っていたとこですわ」
雑兵までもが高次の意見に賛同を示した。やがてその声は膨れ上がり大音声になった。
高次は感動した。
ーーわしは一人ではなかった。信じてくれるものは門齋だけではない。こんなにも多くの人がわしを信じてくれておる。
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