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竜子
高次籠城に誰よりも驚いたのは淀殿と石田三成である。
三成は交戦派だったが、淀殿(秀吉の妻、秀頼の母)が非交戦派であった。というのも、高次の妻は自分の妹であり、籠城戦となると妹が不憫で仕方がなかった。淀殿は二度の籠城を経験しており、その怖さを身をもって体験している。妹を不幸にだけはしたくなかった。
「高次は血迷ったのか!? 大津城には、わらわの妹がおる。むやみに兵を出すな。穏便に進めよ」というのは淀殿である。
顔は青ざめて、ひっきりなしに歩いては止まるのを繰り返し、落ち着きを失っていた。
「話せばわかるはずじゃ。高次は必ず西軍に戻ってきてくれる。そうだ。おなごが良い。今すぐ派遣せよ」
大阪から二度の使者を派遣し、説得を試みた。しかし、その都度、高次は自分の決意を述べて丁寧に返した。
高次にとっては好ましい展開である。この籠城では、時間稼ぎにこそ絶対的な価値があった。
そして九月六日。また新たな使者が現れた。
「高次様、大阪方より謁見したいとの使者が参っています」
「また使者か。次は誰だ?」
「それが、竜子様です!」
「竜子だと? 通せ!」
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