竜子

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 数年ぶりに竜子と対面した高次は、竜子のその変貌に驚いた。  顔立ちはそのままだ。しかし、表情に淀んだ影が差し、目の下の隈や、複数の細かなシワが、人生の苦労をそのまま表していた。  竜子は秀吉が死んでから不遇の処置を受けている。遺品を処理するかのように大阪城から伏見へ追い出された。しかし、伏見城で戦いが始まると、宇喜多秀家の処置で大阪城の松の丸館にまた戻ってこれたが、肩身は狭い。 「竜子。いったいどうした?」 「どうしたも何もありません。私は淀殿からの言付けを持ってきただけです。しかし、それはもういいでしょう。私は自分の本当の気持ちをお兄様に伝えたい」 「本当の気持ち?」 「お兄様。私は疲れました。強く生きてきましたよ。最初こそ憎んでいた秀吉様も、次第に愛せるようになりました。しかし、秀吉様が死ぬと伏見へ追い出され、戦。大阪に戻ったら、今度はお兄様が籠城」  竜子はぽろりと涙を流した。 「私はただ、ひっそりと暮らしたい。それは叶わぬ夢ですか?」 「叶わぬ夢ではない!」 「しかし、お兄様がこのような態度をとるのなら、また私は苛烈な人生を歩むことになります!」 「竜子……」 「お兄様……城を解放してくだされ。私をこれ以上追い込まないでください」  竜子はおいおいと泣いている。高次は一瞬言葉につまった。
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