電光石火

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 町が焼けた次の日、西軍は高次に対して、交渉を諦め武力行使に躍り出た。この時、宗茂は琵琶湖の東側、中仙道の途中にいたため、大津城攻略に当てられた。    宗茂は速い。瞬く間に瀬田の唐橋に着くと、咆哮を上げて猪突猛進した。 「オオアアアーーーーー!!」 「鬼じゃ!? 鬼が出た!」  砂塵を上げて襲いかかる騎馬軍に、京極の兵は恐れおののいた。駆け足で逃げる者。腰を抜かす者。戦う気概のあるものは一人としていなかった。  橋に着いた時点で勝負は決したと言っていい。  先陣をきったのは十時連貞だ。速度ののった刀は容易く兵の首を跳ねた。その勢いに乗じて数人斬っていく。瀬田の唐橋に血飛沫が舞った。 「連貞! 止めい! 京極よ。戦う気がないのなら逃げよ。むやみな殺生はせん」  宗茂は腰を抜かしている兵に睨みを聞かせると、兵は完全に戦意を喪失したのか、這いずりながら去っていった。   「これが蛍大名と呼ばれるものの兵か。なんと弱い……」  宗茂は驚きを隠せない。この程度の度胸で、なぜ裏切りなどしたのだろうか。全くやる気が感じられない。  ーー高次殿はこのようなことをして恥ずかしくないのか。太閤様から貰った恩義はどうした。家康殿にそそのかされたか。  高次は秀吉に命を助けられただけでなく、大津城まで貰った。秀吉からの恩義は計りしれないはずだ。それなのに裏切るとは、宗茂にとっては理解不能だった。忠義を芯におく宗茂にすれば、裏切りは最も恥ずべき行為である。ふつふつとこみ上げてくるものがあった。 「まあよい。この調子なら逢坂関も制圧できよう。連貞はここに残り、鎮幸の到着を待て。他に半数はここにおく。残りの半数はわしと共に逢坂関にいくぞ」  宗茂は15騎で駆けていった。
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