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長等山
琵琶湖の眺望はなにも大津城だけのものではない。
長等山から見る淡海も格別であった。
高次は口うるさい門斎に隠れて、長等山に登ることがあった。この山は全長380mと小ぶりで、大津城から西に半里ほどの場所にあるため頂上に行くのはさほど時間がかからない。
この日も高次は長等山にいた。
切り株に座り、遥か遠くを見る。淡海の上に、こんもりとした森がポツンと浮いていた。きっと沖島だ。その手前には無限の湖面が広がり、数艇の舟が動いている。手前の方に目線を移せば、琵琶のくびれのようにぐっと狭くなり、遂には大津城が見える。
ーー立派だ。
見惚れざるをえない。
三の丸、二の丸、本丸とあり、その隔たりは全て堀で囲んである。出入口は京町口、三井寺口、尾花川口、浜町口と四つあり、京町口の楼門は格別に美しかった。
ーー大津城。ここにわしがいるのか。
長等山の高次は、大津城主の高次とは別人になった。
信じられないという思いがある。自分には分不相応な城だ。なぜこの場所に自分なのか。秀吉は優秀な大名を多く抱え、なぜこの要衝に自分を選んだのか。
数奇な運命である。本来なら、自分程度の人間は既に死んでいてもおかしくない。
物思いにふけっていたとき、後ろから声がした。
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