湖南の要塞

4/7
前へ
/96ページ
次へ
「ついに我らの出番か」  というのは赤尾伊豆である。  小柄で細身な体ながら、具足の間から見える肌に躍動感があった。全身バネの塊のような男である。長槍にもたれかかり立っていた。 「ああ。ようやくこの腕を存分に奮うときが来たな」  大炊介は十文字槍を手にとり、赤尾伊豆に答えた。 「大炊。無茶はするなよ」 「わかっとる。兄者も無茶はするな」  大炊介の兄、三左衛門である。兄弟揃って熊のような巨体であった。  これらの光景を黙って聞いていたのが、多賀孫左衛門だ。顔中に髭を蓄え陰湿な影が落ちている。落ち窪んだ目付きが鋭かった。 「行くぞ!」  大炊介の力強い言葉に三人が頷いた。 「いざ出陣じゃあ!」
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加