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「ついに我らの出番か」
というのは赤尾伊豆である。
小柄で細身な体ながら、具足の間から見える肌に躍動感があった。全身バネの塊のような男である。長槍にもたれかかり立っていた。
「ああ。ようやくこの腕を存分に奮うときが来たな」
大炊介は十文字槍を手にとり、赤尾伊豆に答えた。
「大炊。無茶はするなよ」
「わかっとる。兄者も無茶はするな」
大炊介の兄、三左衛門である。兄弟揃って熊のような巨体であった。
これらの光景を黙って聞いていたのが、多賀孫左衛門だ。顔中に髭を蓄え陰湿な影が落ちている。落ち窪んだ目付きが鋭かった。
「行くぞ!」
大炊介の力強い言葉に三人が頷いた。
「いざ出陣じゃあ!」
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