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大炊介は馬にのり、南の城門をあけて敵陣に突っ込んでいった。その後を数騎の馬が駆け、足軽が雪崩となって走った。
敵は小早川秀包だ。
このときの秀包軍の驚きは騒然たるものであった。
当然である。
信じられない光景なのだ。
籠城戦は始まったばかりで秀包軍に緊張感はなく談笑しているものもいた。何せ相手は蛍大名だ。圧倒的な戦力差を前に京極軍は門を固く閉め耐えるしかないのだ。
しかしその時、開くはずのない門が開き、どっと人馬が襲いかかってきたのだ。気でも狂っているのか? 兵数が10倍以上いることを知らないのか? 城に籠っておればよく、外へ出る必要などない。白兵戦では数こそ力である。そんなことをすれば、たちまちに京極軍は壊滅し、容易く城は落ちるだろう。突撃してくるなど悪手中の悪手なのである。
だが京極軍は襲いかかってきた。
「行けやっ」
大炊介の怒号がとぶ。
十文字槍をひっさげて駆け回り暴れた。豪腕である。八の字に振り回せば、嵐が通過したような空を切る音が鳴り、何人かの敵兵にあたった。狙いなどなく、ただ力任せに振り回しているだけだが、かすれば肉を切り裂き、柄があたれば吹き飛び、直撃すれば首が跳んだ。
「大炊。やりすぎじゃあ」
大炊介の後ろを兄の三左衛門が追う。討ち損ねた兵を丁寧に槍で刺していった。
一方的と言っていい。戦う準備の出来ていなかった秀包軍は土砂崩れのように崩れていった。
「退けい。退けい。深追いはするな」
ある程度暴れ回った大炊介達は城内に戻った。
そこには地獄絵図だけが残り、言葉を失った秀包は頭を抱えるのみである。
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