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夜襲
次の日、消極的な攻防が続きこれといった進展はなかった。順調と言える。しかし、ここで気になる点が二つあった。
一つは、東軍本隊の状況がわからないこと。
もう一つは、立花宗茂が野放しなこと。
「順調ですね」と門斎が言う。
「うむ。だが、東軍、西軍本隊の状況がわからねば困るな」
「確かに。しかし、偵察に遣いをやろうにもこう包囲されていては鼠一匹城の外へは行けませんぞ」
「湖上はどうだ?」
「毛利元康の水軍がたむろしております」
「八方ふさがりか」
この籠城は岐阜城にいる東軍本隊の動きが何よりも重要だ。
東軍が勝利を治めるまで耐える、というのが方針である。
今の状況で後詰めが現れるとは考えづらいが、美濃に本隊を構える両軍が衝突することは確実であり、その日を何よりも知りたかった。
「家康殿の決戦の日がいつかわからねば、いつまで耐えれば良いかが分からん。どうしたものか……」
そのとき声がした。
「失礼つかまつる」
声の方に目を向けると、孫左衛門が入ってきた。
「すみません。襖より話を聞いておりました。その役目、某に任せてもらえませんか?」
「ほう。しかし、どうやって城から出る?」
「夜に琵琶湖を抜けます」
「元康の水軍はどうする?」
「見つからぬように行きます」
孫左衛門の口調が力を帯びる。
「某は、大炊介や赤尾伊豆のような腕力はありません。されど、このような隠密な行動は得意。活躍する機会を与えてくださいませ」
「危険な仕事だぞ」
「承知の上」
「できるのか?」
孫左衛門の目が高次を射ぬいた。
「できます」
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