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十一日。
静かに東門は開いた。
あいにく空は晴れ、満月が大津を照らしている。薄暗い闇の中を大炊介の巨体がゆっくり動き、その後ろに複数の兵をぞろぞろと連れていた。
大炊介の肩が叩かれた。赤尾伊豆である。
「お主の巨体はこの場では不利。わしに先に行かせてもらえぬか」
「大炊。ここは赤尾伊豆に任せよう」兄の三左衛門が同調した。
大炊介が頷くと、赤尾伊豆は素早く動き陣の中を覗きにいった。筑紫の兵がよく寝ている。赤尾伊豆は手を大きく回して、味方を呼び寄せた。
「まずはここから行く。声が上がったら突っ込んで来い。それまで待っておれ」
そういうと、赤尾伊豆は腰の脇差しを抜き取り、陣中に入っていった。
寝そべる兵の一人の口を塞ぐと同時に首を素早くかっきった。闇夜に鮮烈な血が舞う。口を塞いだまま完全にこと切れるのを待った。
もう一人。赤尾伊豆は次の兵を仕留める。三人目を殺ろうとしたとき、筑紫軍の一人が気付いた。
「な、な、なにやつ。て、敵しゅ」
赤尾伊豆が喉を目掛けて脇差しを投げ仕留めた。しかし、敵軍は目が覚め始める。
「来いっ!」赤尾伊豆が叫ぶ。
大炊介達本隊が陣営に突入してきた。
「皆殺しじゃあ!」
場は一瞬にして混沌とした。「敵襲! 敵襲!」と叫び声がこだする中、大炊介の十文字槍が唸った。人がはじけとぶ。兄の三左衛門も負けじと槍を振るう。この勢いであれば全滅も可能であった。
しかし、陣営に雪崩こんできたのは、大炊介達だけではない。立花軍も十時連貞を先頭に突っ込んできた。夜襲に備えて警備をしていたため、異変にいち早く気付いたのだ。
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