長等山

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「高次様? やはり高次様じゃないですか」  草木をかき分けて熊のような男がでてきた。 「お主こそこんなとこで何をしておる」  山田大炊介(おおいのすけ)、高次の家臣で侍大将をしている。筋骨粒々とした体は活力に溢れていた。 「いや、お恥ずかしながら鍛練です。それに、ここからだと城が良く見えます」  伸びきった髭を擦りながら大炊介は答えた。確かに美しい城が見える。しかし、大炊介の目的は観賞ではなかった。 「ここから城を見れば、どこでどう戦うべきかわかります」 「戦う?」 「そうです。そして想像するんです。敵を切り、叫んでいる姿を。京極高次が家臣、山田大炊介とはわしのことじゃあ、と」  大炊介は赤面している。大炊介としては、主人に自分の忠誠心を主張したいだけだったのだが、高次の思いは別にあった。戦という言葉を聞いて急に現実感に襲われたのだ。  いや、急にではない。常に戦の恐怖はあった。それから目を反らすためにこの場所に来たのだ。 「そういえば、会津若松の上杉景勝殿が家康殿に対抗して挙兵したそうですね」 「ああ知っておる」 「いよいよ、本格的に戦が始まってきましたな。腕がなりますよ」 「そうか。頼もしい」 「ところで、高次様は東西どちらのお味方をされるつもりですか?」
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