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岐阜城についたのは十一日の昼だった。
応対してくれたのは井伊直政だ。
「京極高次様からの遣いで参りました」
「よく参った。して要件は?」
孫左衛門はまくし立てた。
「今、大津城に立て籠り、西軍を一時に受け止めております。しかし、無限に持ちこたえることはできません。家康殿の助けが何よりも必要なのです」
「籠城ご苦労。しかし、まさか後詰めを頼むわけではないな?」
「は。後詰めではありません。我らが西軍の兵力を分散している間に、家康殿には西軍と決戦をして頂きたいのです。そうでなければ、我らが籠城している意味がなくなります」
「その件は助かっておる。して大津城を包囲しているのは誰だ?」
「毛利元康、小早川秀包、筑紫広門、そして立花宗茂。おおよそ三万です」
直政の顔色が変わった。
「なんと! 立花もいるのか。これは千載一遇の機かもしれん。殿に報告しておく」
「それだけでは困ります。いつ決戦に挑まれるのかお教えして頂きたい」
「決戦の日を決めるのは家康様である。わしからはなんとも言えん」
「それは重々承知の上です。しかし、我らの決死の覚悟を無駄にして欲しくない。いつまで耐えればよいか、それだけでも教えてくれませぬか」
孫左衛門の強い目に直政は一瞬ひるんだ。
「お主の覚悟はわかった。では言おう。が、これは極秘だ。内密を約束せよ」
「はは」
「決戦は関ヶ原。日は十五日。決戦が何日続くかは分からん。が、終わるまでは何とか持ちこたえよ」
「感謝いたす。死んでも守りきります」
孫左衛門は平伏すると、大津城へと戻っていった。
ーー決戦は十五日。決戦は十五日だ。
頭の中で何度も反芻させた。
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