導かれるままに

2/2
前へ
/96ページ
次へ
 岐阜城についたのは十一日の昼だった。  応対してくれたのは井伊直政だ。 「京極高次様からの遣いで参りました」 「よく参った。して要件は?」  孫左衛門はまくし立てた。 「今、大津城に立て籠り、西軍を一時に受け止めております。しかし、無限に持ちこたえることはできません。家康殿の助けが何よりも必要なのです」 「籠城ご苦労。しかし、まさか後詰めを頼むわけではないな?」 「は。後詰めではありません。我らが西軍の兵力を分散している間に、家康殿には西軍と決戦をして頂きたいのです。そうでなければ、我らが籠城している意味がなくなります」 「その件は助かっておる。して大津城を包囲しているのは誰だ?」 「毛利元康、小早川秀包、筑紫広門、そして立花宗茂。おおよそ三万です」  直政の顔色が変わった。 「なんと! 立花もいるのか。これは千載一遇の機かもしれん。殿に報告しておく」 「それだけでは困ります。いつ決戦に挑まれるのかお教えして頂きたい」 「決戦の日を決めるのは家康様である。わしからはなんとも言えん」 「それは重々承知の上です。しかし、我らの決死の覚悟を無駄にして欲しくない。いつまで耐えればよいか、それだけでも教えてくれませぬか」  孫左衛門の強い目に直政は一瞬ひるんだ。 「お主の覚悟はわかった。では言おう。が、これは極秘だ。内密を約束せよ」 「はは」 「決戦は関ヶ原。日は十五日。決戦が何日続くかは分からん。が、終わるまでは何とか持ちこたえよ」 「感謝いたす。死んでも守りきります」  孫左衛門は平伏すると、大津城へと戻っていった。  ーー決戦は十五日。決戦は十五日だ。  頭の中で何度も反芻させた。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加