本領発揮

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本領発揮

 長等山(ながらやま)から見る琵琶湖は格別であった。秋の風は優しく湖面を撫で、ゆっくり時を刻んでいる。戦の真っ只中など嘘のように、大津は静寂に包まれていた。  十三日。  宗茂はその眺望を望みながら、満悦していた。 「絶景、絶景。お主もそう思わぬか?」 「某に風流は分かりません」  小野鎮幸(しげゆき)が言った。その瞳は、琵琶湖ではなく大津城を一点に見ている。 「お主は大津城にしか興味がわかんか?」 「左様。この角度が絶妙でござるな」  鎮幸はうろうろしながら、測量するように大津城に向けて真っ直ぐ手を伸ばし、入念に腕の角度を調整していた。 「ここでしょうな」  鎮幸は立ち止まる。すると、滑車が重々しく回る音がなり、鎮幸の横に鉄の塊が並べられた。  仏狼機砲である。 「避難はしておりますな? 砲弾は照準通りには飛ばないかもしれません」 「当然すませてある。必中でなくともよい、撃ちまくれ」 「それでは」  鎮幸は火薬と弾を装填した。   
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