本領発揮

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 ドンッ。  耳をつんざく轟音がなって、長等山に黒い煙が立ち込める。砲弾は大津城に届かず土にめりこんだ。  ドンッ。  二発目。大津城をそれて琵琶湖に着弾し水飛沫をあげる。  ドンッ。  三発目で三ノ丸に着弾した。 「よしっ! そのまま続けよ」宗茂が吠える。  更に連続して仏狼機砲を撃たれた。砲台は熱を帯び、壊れるものあった。この時代の大砲に耐久力はない。複数ある仏狼機砲を順に打ち、休ませながら撃っていた。 「まだまだ。やれい」宗茂の声が熱を帯びる。  やがて砲弾は二の丸にも当たり、三の丸にも更に四度着弾した。距離や高さといい、長等山は砲台の設置場所として絶好の条件が揃っていた。  勢いに乗った砲口は興奮したように赤みを帯びて一撃を放つ。  火薬の爆ぜる音が鼓膜を揺らし、数秒音を消し去った。無音の時間はゆっくりと進む。黒煙の隙間から見える砲弾は、空を泳いでいるように見えた。  宗茂は放物線を目で追いながら思った。なぜ高次は裏切ったのかと。忠義に生きてこそ誇り高く生きれるのだ。裏切りの先に得たものがあったとして、それに何の意味があるというのだ。  ーーわしが終わらせる。大津城を落とす。 「「わぁーー!」」歓声と同時に音が戻った。  砲弾は天守閣の角に当たり、屋根を崩して壁に大きな穴を開けていた。    場は歓喜に沸き、冷静沈着な鎮幸でさえ思わず笑みをこぼした。 「もしや死にましたかね」 「わからん。が、これで死ぬならそれまでの男とゆうことよ。ふらんきはもう良い。本戦に温存させる」 「了解です」 「この場はお主に任せた。わしは戦場に戻る」  宗茂は駆けた。
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