本領発揮

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 その頃、大津城は混沌としていた。声にならない叫び声が響き渡っている。   「イヤーーー。イヤーーーーーー」 「竜子。安心しろ。大丈夫だ」  天守閣にいた高次と竜子は被弾を免れていた。しかし、安全だと思われていた天守閣にいきなり強力な攻撃を受けたのだ。混乱しないはずがない。高次は状況を整理しようとした。  ーーこれは夢か。そんなはずはない。落ち着け。一体何が起きた……。まさか! 「高次様、大変です。西軍が大筒を撃ってきました」門齋が慌てて報告してきた。 「くっ。やはり大筒か」  攻城戦で大砲が使われたのはこの日が日本史上で初となる。戦術が一歩近代化した瞬間であった。この砲撃の目的は城を倒壊させることではないし、それほどの威力は無い。しかし、城内を混乱の渦に巻き込むには充分すぎた。 「まずはこの混乱を鎮めねば。門齋、城内の様子を見てまいれ」 「はは」  高次が落ち着いていられたのは、竜子が恐れすぎていたためだ。その姿が反って高次を冷静にさせた。 「竜子。安心しろ。砲弾は止んだぞ。火縄銃と同じで、おそらくそう何度も連発できるものではないはずだ」 「お兄様……。私はもう少しで死ぬとこでした……」  高次は竜子の正面に立ち、両肩を強く叩いた。 「死なん。京極は天運に護られておる」  天運。なんとも馬鹿なことを口にしたものだと、高次は自分の言葉に嫌気がさした。しかし、次に出てきた言葉も辟易するものだった。
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