本領発揮

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 二の丸の中では既に兵がごった返していた。 「お主たち、こんな所で何をしておる。三の丸の守備はどうした?」 「た、高次様?! なぜって、もう城は落ちたも同然……」 「そんなことはない。まだ城門は一つも破られてはおらんではないか」 「すぐ破られますよ……。それにいつ砲弾にやられるかも分かりません。敵う相手ではなかったんですよ……」 「何を弱気な! ええい、知らんわ」  高次は走りながら毒づいた。このままでは城の内部から崩壊してしまう。しかし、この混乱をまとめる術を高次は持っていない。できることは一つだけ。高次は力の限り叫んだ。叫びながら走った。 「安心せい! 京極は天の加護の元にある!」  現実みを帯びていない言葉は、誰の心に届くこともなく空に消えた。  高次は自分のことを情けなく思った。空っぽな人間だ。京極、京極、それしか言う言葉がない。機転の効いた言葉も、激励叱咤する言葉も出てこない。出てくるのは京極という言葉だけしかなかった。しかし、それでも無我夢中で叫んだ。  三の丸についたとき兵の一人が話しかけてきた。 「高次様、なぜこんなところに?! それより大変です。堀が埋められております」 「堀を埋めるだと?! そんな無茶なことできるはずがない」 「それが、民家の木材などを堀に投げているんです」 「土で埋めるのではなく、木を浮かべているのか」 「左様です」 「それで堀が埋まるとは思えんが」 「しかし、もしも埋まれば……」  埋まれば城の防御力は消滅したといっていい。高次は冷や汗を掻いていた。普通に考えれば、埋まるはずがない。しかし、一抹の不安は頭の中で肥大していき、どうしようもない焦燥にかられた。  そのとき、また新たな報告があった。 「高次様?! 東門が大変です!」 「東門だと」
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