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死闘
その頃、二の丸には避難している兵が2000ほどいた。いや、逃避といった方がいいかもしれない。
高次は兵達の肩を落とした姿を見て愕然とした。これでは駄目だ。今こそ一枚岩となって戦わねばならぬ時なのだ。高次は意を決して皆の前に立ち、声を荒げた。
「なぜだ。なぜ戦わぬ」
ーー弱いからだ。
「今、大炊介達が死にものぐるいで戦っておる。恥ずかしくないのか」
ーー恥ずかしい。しかし怖いのだ。
「お主達は伝統ある京極の兵だぞ」
高次はここまで話して気付いた。ここにおるものは皆わしなのだと。自分と同じ、臆病者で軟弱者で優柔不断なのだ。一人残らずわしなのだ。
己の弱さを呪い、誇りなどとうに捨て、恥ずかしくも我慢して生きている。それがみじめだと知っていても変える力がない。一歩を踏み出す勇気がない。
だが本当は変わりたいのだ。心の奥底では変わりたいと叫んでいるのだ。それならば……。
「わかった。わしは行くぞ」
高次は兜を被り、緒をきつく閉めた。
京極など関係ない。一人の人間として勇ましい姿を見せようと思った。同じ臆病者として、勇敢な姿を見せようと思った。その姿を見せることしか自分にできることはないと思った。
「わしを見よ。臆病者の勇敢な姿を見よ! 輝く姿を見よ!」
高次は槍を握ると、三の丸へ走った。
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