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人で溢れ返っている。
大炊介はその中から連貞を探した。あやつを倒せるのは自分しかいない。そう直感が言っていた。「どこだ。どこにおる」十文字槍を左、右とリズムよく振るいながら探し回った。
「あれか」
頭一つ飛び出た巨体を見つけた。おそらく奴だ。大炊介は馬に檄を飛ばし駆けた。
連貞は大炊介の気迫に瞬時に気付く。
「お前はあの時の! はははっ。勝負せいっ」
連貞は馬に向かって走り、身を屈めて地面を滑りながら馬の足を切った。
「くっ。しまった」
馬は横転し、大炊介もつられて派手に転んだ。あろうことか、その時に十文字槍も離してしまった。
連貞がそれを見逃すはずがない。
「あっけない幕切れよのお」
連貞は転んでいる大炊介めがけて刀を真っ直ぐに振り下ろした。
「ぐおっ」
血が舞う。
「なぜじゃ。なぜじゃ兄者!」
「ふん。お主は京極にひつよ……うだからな……」
大炊介の前には兄の三左衛門が仁王立ちをしていた。大炊介を庇ったのだ。連貞が切ったのは三左衛門だった。
「兄者! 兄者!」
「くっ。邪魔を」
三左衛門の肉に挟まり刀を抜くのに時間がかかった。大炊介も悲しんでいる暇などない。その隙に十文字槍を拾った。
「らあっ」
大炊介は体を半回転させてその勢いのまま連貞を斬った。刀を抜かれて防がれたが、その強烈な一撃は連貞をよろけさせる。しかし、追い討ちはかけなかった。
「勝負は預ける。兄者の首は誰にも渡さん」
大炊介は十文字槍の先を三左衛門の具足にかけると引きずりながら二の丸に退いていった。大炊介の悲しみは闘志を上回っていたのだ。
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