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赤尾伊豆と門齋は高次の護衛にまわっていた。赤尾伊豆の華麗な槍さばきは立花兵を威圧した。老齢の門齋も負けじと刀を振るう。年齢にそぐわず力強い戦い方だった。
「わしに構うな。お主らはお主らで暴れ回れ」
高次はめちゃくちゃに槍を振り回していた。
「無謀ですぞ。高次様」
「やはり立花は強い。高次様一旦退きましょう」
京極も善戦していたが、立花軍とはやはり埋められない溝があった。最初は人数でも気迫でも互角と思われたが、時間が立つにつれて力の差が如実に表れてきたのだ。
ーー退くのか。ここまでやって退くのか。
京極軍は少しずつ、しかし確実に減ってきている。高次は判断しかねた。
「高次様。兄者が討ち取られました」大炊介だ。
二の丸に帰った大炊介は、三左衛門の死体を預けると、また新たな馬にのり三の丸に戻ってきた。
「仇をとりにいきます」
大炊介は明らかに我を失っていた。憤怒の表情からは冷静さが一切見受けられない。これがかえって高次に決断させた。このままでは大炊介も失うかもしれない。
「ならん。一旦退く。退いて体勢を立て直す」
高次は撤退を決断したが、その言葉を聞くことなく大炊介は特攻した。
「赤尾伊豆。大炊介を助けてやってくれ。お主でなきゃ奴はとまらん」
「わかりました。絶対に死なないで下さい」
赤尾伊豆は大炊介を追いかけた。
「二の丸に戻れ! 二の丸に戻れい!」
高次は声を荒げた。京極軍は退きはじめる。だが、逃げる時が一番危ない。敵からすれば逃げる者を討つことほど簡単なことはない。
その時である。
「京極高次見つけたぞ。裏切り者に天罰を与える」
日輪の兜。
月輪文最上胴具足。
間違いない。立花宗茂だ。
黒鹿毛の馬に跨がるその姿は戦神そのものであった。
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