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「あああああーーー」
高次は恐怖を振り払うために吠えた。しかし足が震えている。
ーーし、死ぬのか。いや、戦うのだ。
高次は槍を斜め上に掲げた。しかし、威圧感は皆無。弱々しい槍はなんの意味もなさなかった。
宗茂が近づくにつれ、高次は後退りしたくなったが耐えた。見られているのだ。高次がまた臆病風に吹かれたら、たちまち軍全体に広がるだろう。
「あああああーーー!」
高次はもう一度叫んだ。
「覚悟!」
宗茂はするりと槍をかわすと高次を斬った。しかし、雷切は空を切る。門齋が高次に体当たりをして助けたのだ。
「門齋。その肩は」
「なに。これぐらい何てことはないです」
肩から出血している。だが、構っている暇はない。宗茂は速度を緩めず、大きく弧を描きながらまた高次達の目の前に現れた。
ーーもう無理か。終わりなのか。
「あっ」宗茂は戸惑いの声を上げた。
高次に後光が差し、宗茂の目が眩んだのだ。いや、後光ではない。雲の隙間から西日が差しただけだ。しかし、その強烈な光は、一時宗茂から視力を奪った。天からの恵みのような西日だった。
「いまだ。いましかない。退くぞ」
京極軍は退いていった。
赤尾伊豆も大炊介を回収し一緒に逃げた。
なんとか二の丸に避難することができた。
「運のいいやつめ」
宗茂は毒づく。京極は不思議な力で守られているような気がした。
「だがもう終わった」
西門も南門も破られ、毛利元康、小早川秀包達の軍も終結した。
三の丸が陥落した。
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