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「勝つか負けるかなど戦わねばわからんではないか! それに退くに退けぬとこまで来ておる! 城の中にはまだ弾薬もある。食料もある。士気も衰えておらん。負ける道理がどこにある」
「伏見城を忘れましたか? 鳥居彦右衛門を忘れましたか?」
「伏見城のように一人残らず討ち死にすると申すか。そんな脅しに屈する高次ではないぞ。今、京極は一丸となっている。弱きものだと見くびるな。皆、手を取り合い、励ましあい、勇気付けあっている」
高次の語調は強まる。
「強い者にはわからんかもしれん。臆病で軟弱な者の気持ちを。変わりたくて必死にもがいている姿をみっともなく思うかもしれん。しかし、わしはその姿が好きだ。そして今みな変わりつつあるのだ。だからこそ我らは強い。西軍は京極の強さを知ることになるだろう」
「本当にいいのですか?」
高次は深呼吸をし、息を落ち着けた。
「高次の決意は変わらぬと申してください」
木喰応其は瞳を落とすと、最後に「私は高次様が好きです」と言って帰っていった。
ーー降伏などできるか。この戦はすでに家康殿の勝ちに乗じるためだけの戦いではない。一人一人の希望がつまった戦いでもあるのだ。
高次は城を出る僧の後ろ姿を、強い眼差しで見ていた。
この日、木喰応其の燐憫か、西軍からの猛攻は受けなかった。
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