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「だからさ! この間のこのテストのここの記述は絶対解答が間違っている!」
「もうその話はいいから……」
「いいや、絶対にこれだけは譲れない」
いつの間にかカバンの中からこの間のテストの解答用紙を取り出し、唯一間違った記述の箇所を指差して、こちらへと何度目かの抗議を始めたのであった。
「いくら、俺に言ってもこの物語の作者でもなければ、問題を作った人間でもないんだから無駄だよ」
「私と同じ間違いかたしてる翔真君も一緒に先生に抗議してくれたら、絶対丸にしてくれる」
「そんなに百点がほしいの?」
「百点が欲しいんじゃない。答えが欲しいの」
「なら、この問題が丸になれば、他の問題は全て不正解になっても?」
「それは困るけど、これが正解になれば点数はこの問題の二点だけでいい」
「めちゃくちゃだな……」
言っていることはめちゃくちゃであったが、その視線と熱意は真剣そのものであった。だから、俺も少しばかり真面目になる。
「まぁ、俺も最初はそう思ってたよ。でも、その問題文で表記されている抜粋の部分から二行前。そこを読んだら少し変わると思うよ」
「え? どこ??」
「問題用紙は?」
宇田さんはカバンの中から、明らかにテスト中以外にも様々なことを書いているような問題用紙を取り出して机の上に置いた。
その問題用紙の中からある一文のところを俺は指差した。
そして、五分ほどの時間が過ぎたあたりから、ゆっくりと宇田さんの表情が変化し、十分も経てば、机に突っ伏していた。
「確かに、ここ読んで、考えたら一理ある……」
「そういうことで俺は納得した」
「うう……」
「納得した?」
「してない」
「でも、理解はした」
「…………うん」
「なら、よかった」
「むっ……」
今しがたの言葉が宇田さんの逆鱗に触れたのか、こちらを睨んで来て、突如机の上に広げてあった俺の数学のノートを自分の元へと引き寄せ、新たなページを開いて、ボールペンで文字を綴っていった。
「ちょ、ちょっと」
「これ、読み解いてよ」
宇田さんによって突き出された数学のノートに書かれてあった言葉に思わず、言葉を失う。
「ほら、解いてよ。翔真君?」
いつものように微笑みかけながら、こちらへ視線を向けて来た。
新しく開かれたノート一ページに大きく書かれた言葉と共に。
“私は翔真君のことを良い人だとおもっています”
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