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「他人の意見を聞いてどうするか考えることは大切だってことはなんとなくわかるけど、そんなことしてたら小説なんて書けないよ?」
「別に、他人の意見を聞いて書いてないから」
「なら、私の感想も要らないね」
「う、うん……」
実はまだ宇田さんからは物語の感想については一切聞いていなかった。今まで宇田さんと話してきたことはあくまで文法上としての感想、意見、修正点でしかなかった。今宇田さんが言った感想が何を指しているのかはわからないが、もしも物語に対する感想ならば少しばかり早計なことをしてしまったと後悔する自分がいた。
「それで、今日はそれだけでここに来たんじゃないよね?」
宇田さんはこちらの考えていることを察していたかのように言葉を投げかけてくるので、何かをいうこともなく、カバンの中から一つのノートを取り出す。
それは、おもいの二文字を書いていた数学のノートである。
「多分、わかった」
「じゃあ、聞かせて。翔真君は思いと想いの違いがなんだと考えたのか……」
今日、この場に来た理由。それは、この二つのおもいの意味を明らかにするためである。
「二つのおもいの違い。それは、頭で考えることか、そうでないかということだと思う」
「なぜ、そう思った?」
「きっかけは宇田さんのヒント。こっちの思いを使うときは自分の頭で考えていることを話すときに使う。けれどこっちの想いを使うときは同じように考えているときに使うけど、なんというか、考えるというよりかは感じたことを話すときに使っているなと感じたから。考えるよりも先に言っているって感じかな」
「なるほどね」
今日の授業中や休み時間などこの時間になるまでずっと考え続けた答えであった。決して携帯で調べたりせず、自分の持てる知識だけで考えた最適解。
「まぁ、正解かな」
「本当に?」
「えぇ」
宇田さんは証拠を示すように、自分の携帯を操作して、二つのおもいを入力して検索をかけた画面をこちらに見せてくる。
「頭で考えることと、心で考えることか……」
「そう。こっちの思いが頭。こっちの想いが心。あと、前者の思いは倫理的に考えていることを指して、後者の思いは人の感情に関して指していることが多いかな。恋愛とかね。あと、この二つ以外にもいろんなおもいって漢字があるから、この機会に確認して置いたほうがいいよ」
「ほんとだ……」
宇田さんの携帯の画面を下へとスライドしていくと様々なおもいの漢字が表示されていき、気が遠くなりそうになる。
「こんなにあるのかよ」
「まぁ、これが日本語の難しいところって言われるくらいだからね」
俺に指し示していた携帯を自分の元へと戻して、宇田さんはこちらに視線を向けてくる。
「でも、嫌いじゃないでしょ?」
「……もちろん」
言葉の種類が多いことは覚えるのもめんどくさいし、いちいちそういう意味を知った上で使うことは大変だ。
しかし、だからこそ書いた物の、そう表現した者のおもいがたった一つの文字に込められていたりするのだ。
「漢字や言い回しそれぞれに、こんなに違いがあるのはめんどくさいけど、だからこそ面白いし、何度読んでもあきない」
「うん……」
執筆を始めたのだって、自分の好きな作品に出逢ったからだ。そして、そんな好きな作品を何度も読んでは感動して、そうやって自分もその世界に踏み入れたいと感じた。
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