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「それから、莉乃の事を調べたんだ。あの女がどこの誰だったのかから始まって、どこに住んでいるのか、どんな仕事をしているのか……その過程で、莉乃の実家の経営状態が良くないのを知った。うちから仕事を回すことができないか、そんな事を考えていたときにあの話が耳に飛び込んできたんだよ」
「それって、斉藤さんとの結婚話ですか?」
「そうだ。本当に驚いた、はらわたが煮えくり返ったね。……でも、この世界に身を沈めていたら聞かない話じゃない。娘をスケベな金持ちの後妻や妾にあてがうなんて、腐りきるほどある。けれど、俺は本当に許せなかった。あのジジィを殺してやろうかと思ったほどだよ」
加州さんはとても物騒な事を言うので、私は少し背筋が震えた。
「けれど、ジジィはあっけなく死んだ。その時は神に感謝したね……きっとあの家の人間は莉乃の事を追い出す。莉乃は帰ったところで、またどこかに売られてしまうのがオチだ。だったらその隙に莉乃に話をつけて、そのまま連れて帰ってしまおうと思ったんだ」
話だけじゃすまなかったけどな、と加州さんは言葉を付け加える。
「本当に、悪いことをしたと思ってる」
「え?」
「あの日、無理やり……」
彼はそこで言葉を途切れさせた。何を言おうとしているのか、私にははっきりわかる。それを思い出そうとすると、お腹が勝手に熱くなってしまう。それを加州さんに悟られないように、私は脚に力を込める。
「本当は、もっと違うカタチでしたかったさ。でも、俺だってオトコだ。……好いた女が目の前にいたら、我慢なんてできないさ」
「……すっ!?」
「いや、そんな生ぬるいものじゃないな。俺はあの時から、ずっとお前の事を愛している」
顔がカッと熱くなっていく。きっと今、見えている素肌すべてが真っ赤に染まっているに違いない。
だって! 男の人に、こんな風にストレートに好意を伝えられるなんて……生まれて初めてだったから。きっと、初めて彼と関係を持った時よりも、心臓がバクバクと素早く脈打っているに違いない。彼はまっすぐに私を見つめる。それが恥ずかしくて、私は顔を伏せた。
「莉乃」
そう呼びかける彼の声は、とびきり優しい。上目遣いに彼をちらりと見ると、加州さんは優しく微笑んでいる。
「このホテルに、部屋を取ってるんだ。……いいか?」
その言葉に、私は頷くほかなかった。
***
加州さんに連れてこられた部屋は、高層にある――いわばスイートルーム。広い部屋がいくつもあって、ベッドルームには大きなベッドが置いてある。洗面所から、加州さんが私を呼び声が聞こえてきた。
「莉乃、ちょっと見てみろよ」
洗面所に向かうと、加州さんは浴室から出てきたばかりだった。
「うちより広い風呂だ。一緒に入ろう」
「……え?」
「いいだろ、別に。何度も裸を見た仲だろう?」
加州さんは上着を脱ぎ、ネクタイをほどいていく。私がもじもじと戸惑っていると、加州さんはワイシャツのボタンを外す手を止めた。
「莉乃?」
「あの……一緒にお風呂はちょっと……」
「どうして?」
私は加州さんから目を反らす。私が彼と一緒にお風呂に入るのが拒む理由……恥ずかしいのもあるけれど、もう一つ理由があった。
「……い、刺青が……」
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